抗ヒスタミン剤について

アレルギー症状を改善することを目的とする抗ヒスタミン剤は第一世代と第二世代に分類されます。
代表的な抗ヒスタミン剤を表に示します。

第一世代 クロルフェニラミンマレイン酸塩 ストナリニ・サット、総合感冒薬など
ジフェンヒドラミン塩酸塩 キンカンAL錠、総合感冒薬など
第二世代 フェキソフェナジン塩酸塩 アレグラFX
セチリジン塩酸塩 新コンタック鼻炎Z、ストナリニZジェル
ロラタジン クラリチンEX
エピナスチン塩酸塩 アレジオン20、ポジナールEP錠

第一世代の抗ヒスタミン剤は一般的に総合感冒薬に配合され、睡眠改善剤や鎮暈薬以外のアレルギーの薬としては単剤で使用されることはほとんどありません。
第二世代の抗ヒスタミン剤は「アレグラFX」や「アレジオン20」など、有効成分としては単剤で、鼻炎等のアレルギーに特化した薬剤で使用されており、「抗アレルギー剤」とも呼ばれています。
第一世代の薬剤は注意すべき副作用が認められています。

インペアードパフォーマンス

ヒトには何らかの化合物が脳に入らないようにバリアがあります (BBB:Blood-Brain-Barrier)
第一世代の薬剤は、脂溶性が高く容易にBBBを通過するため、眠気や身体のだるさ、倦怠感などが生じます。このことをインペアードパフォーマンスと呼ばれています。
インペアードパフォーマンスは主観的に眠気などを感じていなくても潜在的に発現しており、抗ヒスタミン剤を服薬しても眠気を訴えない患者でも認知機能は著しく低下している場合があります。
例えば、クロルフェニラミンマレイン酸塩を最小用量の2mgであってもインペアードパフォーマンスを生じ、これは、ウイスキーのシングルを3杯飲んだときに相当すると考えられています。
よって、服薬後の乗物又は機械類の運転操作は添付文書上で「してはいけないこと」とされています。

また、抗コリン作用を持ち、のどの渇きや尿が出づらくなるなどの副作用が認められおり、眼圧を上昇させる可能性があるため閉塞隅角緑内障の患者には注意が必要です。
第二世代の薬剤は、このような第一世代の薬剤の副作用を軽減するために開発されました。
第二世代の薬剤も、ある程度BBBを通過するため眠気等の副作用は発現するため注意が必要ですが、その頻度や程度は低いものになっています。
また、抗コリン作用も弱くなっており、これに関連する副作用も少なくなっています。
これらの事から第二世代の薬剤が主流となっています。

薬剤性QT延長症候群

第二世代の薬剤でかつて問題となったこととして、「薬剤性QT延長症候群」があります。
心電図上のQTと呼ばれる部分の時間が長くなり、最悪の場合心停止に陥る可能性があります。
初期に開発されたテルフェナジン(商品名:トリルダン)でQT延長から心室細動を起こし、死に至った患者が発生したため発売中止となりました。
そのテルフェナジンを改良(テルフェナジンの代謝体)として開発されたのがフェキソフェナジン(商品名:アレグラ)です。
現在では「薬剤性QT延長症候群」のリスクは少ないですが、潜在的にQT時間が長い方は注意が必要です。

抗ヒスタミン剤は、ヒスタミン受容体をブロックして効果を発現し、ヒスタミン受容体には主としてH1受容体とH2受容体があります(H3、H4受容体の存在も確認されています)。
このうちアレルギーに関してはH1受容体ですが、H2受容体は胃散分泌などに関与しており、胃散分泌抑制を目的にファモチジン(商品名:ガスター10)などが発売されています。
花粉症での鼻炎症状の改善を目的に抗ヒスタミン剤を使用するときは、花粉の飛散時期前、実際に症状が発現する前に服用することが望ましいとされています。
一般に、受容体は不活性型で存在し、アゴニスト(例えばヒスタミン)と結合することにより活性型に変化し機能発現します。
しかし、ある種の受容体(たとえばヒスタミン受容体)はアゴニストが存在しなくても不活性型と活性型の平衡で共存し、細胞内の情報が伝達されている、すなわち微弱にアレルギー反応が起こっています。
このときアゴニストは活性型受容体に結合することにより不活性型と活性型の平衡を活性型優位の方向にずらし、よりアレルギー反応を増幅します。
一方、インバースアゴニスト(抗ヒスタミン剤)は不活性型受容体への親和性が高く、平衡を不活性型受容体優位の方向へずらし、アレルギー反応の発生を抑制します。
このため花粉が飛散し、大量のヒスタミンが受容体に結合すると活性型受容体が増加し、抗ヒスタミン剤の効果が発揮しづらくなります。
よって、抗ヒスタミン剤はインバースアゴニストとして働くため、花粉が飛散する前に抗ヒスタミン剤を服薬し不活性型受容体を増加させることで、より高い抗ヒスタミン剤の効果が発揮できると考えられています。